トルコを南下 Izmirに到着≪十月十一日≫ ―壱―気持ちの整理が出来なかったのか、昨夜は暫く寝付かれず、今朝の目覚めも良くない。 昨日、久しぶりに再会した仲間達とも別れ、重いバックパックを背負い外に出る。 政雄はヒッチで西に向かい、陸伝いでギリシャに入ると言う。 新保君はバスで西に向かう。 俺は、彼らとは別に、トルコを南に南下し、島巡りをしながらギリシャの南に向かう予定だ。 午前7:30。 トプカピ・ガレージに向かうバスの中。 昨日受け取った手紙のせいか、重たいバックパックのせいか、・・・・やたらと歩く足のなんと重たい事か。 午前8:10。 トプカピ・ガレージに到着。 待合室にて、何度も手紙を読み返す。 「結婚することになるだろうと思います。」 ・・・・・・・・・・?! 現地の人だろうか、四五人同じようにバスを待っている。 静かな朝だ。 乗客は少なく、予定より少し遅れて出発。 手紙は手の中に。 頭をバスの窓にもたせ掛けているが、外の景色はまるで見えてこない。 外国人旅行者は俺一人のようだ。 途中のガレージで、数人新たに乗り込んできた。 ヨーロッパからアジアへとバスは初めて、西から東へと移動している。 常に西に向かっていたのに。 ガラタ橋から見上げたつり橋をバスは走りぬける。 橋を渡り終えると、暫く東に進路を取った後、バスは南へと進路を変更した。 Izmitの街へ向かう。 昨夜、あまり眠れなかったせいか、窓から射し込む陽光のせいか、いつの間にか眠ってしまっていた。 * 目を覚ますと、バスの影が窓の外に長く伸びているのが見える。 もうすでにバスは、南に向かっている。 二時間は眠っていたようだ。 陽ざしが強く、右手には青々と澄んだ”エーゲ海(EGE DENIZI)”が広がっているのが見える。 Istanbulに着く前に見た海の様子とは違い、白壁に赤い屋根を持った民家が点在し、畑には色とりどりな緑が美しく広がっている。 日本に居る時、想像したエーゲ海の景色が今、バスの窓ガラスを通して、目の前に広がっているのだ。 そんな海岸線を、Busはいつまでも、何処までも走る。 途中、バスは停まった。 休憩所だろうか。 木立に囲まれた、林の中の静かな茶屋と言った雰囲気が素晴らしい。 小鳥の囀りも聞こえてくる。 「ここのチャイ(茶)は、サービスだから・・・・。」とお茶を勧めてくれる。 他の乗客たちも各々好きなテーブルにつき、ゆっくりと旅の疲れを癒している。 長時間バスに揺られてきて、こう言ったところで休憩するのは初めてだろうか。 15分ほどの休息だった。 再びバスは走り始めた。 時々、居眠りをしながら、色々と変化していく、美しい景観に圧倒されながら、時が経ち、夕日が美しく輝いている。 エーゲ海に今にも没しようとしている夕日。 目指す”Izmir”の街はもうすぐのはずだ。 * 闇が窓の外を支配し始めると、天空の星のきらめきよりもはるかに多くの、そしてはるかに大きな輝きをもって、”Izmir”の夜景が見えてきた。 その灯りは暗闇の中、近くにある海が目の前に広がっている事を教えてくれる。 バスは、イズミール湾に突当たり、左に大きくカーブを切ると、定刻よりも一時間早い到着だ。 暗闇の中、忽然と現れた明るく照らされた広場の中に、バスは吸い込まれていった。 長い旅を続けてきたこのバスも、どうやらここが終点らしい。 バスを降り、辺りを見渡す。 バックパックを下ろし、地図を取り出し、一息つく事にしよう。 大きなバス・ガレージなのだろう。 日がとっくに沈んだと言うのに、バスを乗り降りする人が、大勢右往左往している様が見える。 かなりの賑わいだ。 到着したばかりのこのバス、まだこれから一仕事待っているのだろうか。 早速、手当たり次第に道を尋ねる。 もちろん片言の英語を駆使して。 「ガレージの前から出ている、37/2と書かれたバスに乗れ!」と教えてくれる。 ガレージの前へ行くと、ちょうど教えられたナンバーのバスが横付けされている処だった。 このバスは、ここが始発なのか、まだ乗客は一人も乗っていなかった。 チケットを購入し、バスに乗り込む。 発車する頃には、立ち席が出るほど混んできた。 もう一度行き先を確かめようと、近くに居たトルコの若者に地図を見せたとたん、五六人の若者が集まってきて、親切にあれやこれや細かく教えてくれるではないか。 涙が出てくる。 その若者達も同じ処まで行くとかで、俺達と一緒に降りろと身振り手振りで、一生懸命教えてくれるではないか。 有難いことだ。 少し英語話せる青年と話をしているうちに、「降りるよ!」と言う少年達について下車。 バスの中で、住所と名前を書いてくれと言われて、学生達のノートに走り書きをしているうちにバスは到着したらしい。 サインをしたのなんて・・・・久しぶりかな。 * 降りた所は、Izmir市内で一番大きな公園の中だろうか、五差路になっている。 どの道を、どのくらい歩けば宿は見つかるのだろうか・・・などと、地図を開いていると、少年達と立ち話をしていた大学生達だろうか、女性も数人混じったグループが早速寄って来て、英語で話し掛けてきた。 「うんうん!」とうなずいて見せるが、理解できたのは二割ぐらいだろうか。 あの道を真っ直ぐ歩くと広場に出るから、それを右に曲がって進めばホテルが数軒軒を並べているから・・・・そんなことを言っているようだ。 もう一度確認する意味で、反復しようとすると、英語で捲し立てながら女学生達が声をあげて笑い始めたではないか。 俺「I see! I see!」 言いながら笑ってはいるものの、まるで半信半疑ではある。 とにかく、どのSt.(通り)を行くのかだけでも分っただけでも収穫なのだからと、礼を言う。 俺 「ありがとう!」 学生達「Japon!Japon!」 一人一人と固い握手を交わしながら礼を言う。 陽気な若者達だ。 言われたとおり、五分も歩くと賑やかな広場に出た。 この広場からも蛸の手足のように、道が伸びている。 教えられた宿はここから少し歩くのだが、腹も減って来たし夜もふけてきた。 俺「仕方ね~~~な!ここらで安宿を探すか!」 この通りでも結構宿は多そうだ。 ちょっと路地を入ると、○○ホテルと書かれた看板を簡単に探す事が出来る。 なるべく汚い建物を探しながら歩いた。 習性だろうか。 住所;1368 Sokak NO6、Basmana Izmirのガレージ到着して、40分後には、市の中心地にあるホテルに落ち着いていた。 地図を見てみると、なかなかいい場所ではないか。 俺「この分だと、明日目指す”チェスメ”に行けるかもしれないなー!」 外のレストランで食事を取った後、部屋に戻る。 鍵もしっかりしていて、小奇麗な部屋である。 2Fのフロア―には客も少なく、俺を入れても二三人の客しか居ないようだ。 人の少ない学校とホテルほど気味の悪い所はないと言うけど、今日はそんな気分かな。 今、何時ごろかな。 時計もついていない。 一日中、Busに揺られていたせいか疲れが取れない。 シュラフに入りこむ。 南京虫には、もうこりごりだから。 暖かいシュラフに潜り込むと、昨日の手紙の事も、旅の疲れも何も感じなかったように暗闇に惹かれていった。 ジャンル別一覧
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